慢学インドネシア {フィクション}
 
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19 雲に隠された小島 1 

長くここに住まわせてもらっているいまでは、目を閉じて想いを馳せなくても、インドネシアは現代と神話が奇妙に共存しているように感じられます。
 ビジネスマンと観光客を満載して南下するガルーダジェットの雲の下には、ボルネオの広大なジャングルが広がり、吹矢を手にしたダヤク族が貴方を見上げているでしょう。

 折りにふれて本を漁ったり、人から聞いたり、噂の類も大切に、あったこと、あり得る事などを混ぜ合わせて書いてみました。 お気に召しますかどうか。

 ご承知のように、ローニン二世号はまだ製図板の中にしか存在せず、カマダ君はカローラに乗って輸出に大忙し、シロットは盗品故売でブタ箱にいると聞きました。
しかし私はいつかきっと、カステール村のゴンザレス氏に逢うことが叶うと信じています。
お国は今中秋の明月とか、兎が餅をついていると昔は教えられたものでしたが、、、。

                 いおり庵 なみお 浪郎
               Jakarta Sep. 1990.

  


Those islands..., you couldn't see them in a lifetime, not in two lives, some are great countries and some are three coconuts and ocean is full of them.   
They are like stars in the sky, there's thousands of them.
           Tidemark by .M.Thomlinson

 インドネシアの東に広がるバンダ海、マルクの故郷 香料諸島、、、
遥かな昔、誰もみたことも無い木の実を、誰かが西洋に運んだ。得も云われぬこの香りに人々は狂った。
当てにならない勇気を支えに、幸運だけを頼りにした一握りの男達が信じられない苦難の末この海に乗り入れ、目指す宝をその眼で見た。
十六世紀、向こう見ずな勇者とならず者のイベリア人が二百七十人、五隻のキャラック帆船で波涛の彼方にあるとゆうスパイスアイランドを目指した。
そして三年半、亡者のような姿でリスボンに帰り着いた時には、生き残り十八人とバハル(一トン)の香りも飛んだナツメグとチェンケの実だった。
−フェルナド マジェラン隊−
                          
 スパイスアイランド、ストロボの閃光にも似て、一瞬華やかに輝き、そして消えた。
今日までバンダの海は誰にも顧みられることもなく、静かな深い眠りについている、、、。


                    
 四十五フィートケッチ'ローニン二世'はもう二日と半日もエクアトール カーム赤道無風帯のなか、陽傘のかかった太陽に照らされて沈黙している。平べったい海、鳥も飛ばず、時も止まってしまった。
「まいったなあ、フネのうえ、座るところも立つところもないわな。デッキはフライパン、キャビンは四十度の蒸し風呂、エンジン焚いて少し風でも入れようか」
「別に約束があるわけじゃあないし、そのうちスコールでも湧いてくりゃあ周りに風も立ってくるでしょう。泣かない泣かない」
そう云いながら無駄とわかっていても雨雲を探している。オーニングの下で寝転んでいても、ねっとりとした汗が首筋から背中から伝って落ちる。汗とは呼べず体液が絞りだされるように。
「こんな状況の時に反乱が起こるそうだ。ドレークが海に放り出された日もこんな日が続いたってゆうし、人間は無為には耐えられないとみえる。小人閑居して不善をなすか」
「スパイスクリッパーもウオリイフォーテイを越えてジャワ海に入りホッとしたら赤道ドルドラム、にっちもさっちも行かず漂っていてマカッサル海賊に囲まれりゃあ、それに壊血病とくりゃあ、胡椒と金が同じ値段だったのもわかりますよね」
「いずれにしても,スパイスクリッパーのガルシャ船長も,この海道をアンボン、テルナテを目指したんだ。彼らがみたうねり、彼らが見た島影は当時と変わっちゃあいないし、いま我々はそこにいる。いい気分だと思ってこの糞暑さを忘れることだ」
私は自分に言い聞かせるように呟いた。
潮目がひと筋、まっすぐ遥か彼方までのびていた。

11・40 14時の方角はるかに黒い雲を視認。
照らされてふやけた脳では最初島影かと見誤ったが、こんな海の真ん中に島などあるはずもない。笑い合ったのは初歩的誤認の嘲笑より、いずれ訪れるであろうスコール驟雨の冷たい心地良い感触を想像しての事だ。唇まで半開きにして待ち望む間抜け面で、半円球の水平線にむかって背伸びをした。
「待ってました、ボス、だいぶでかい奴でっせ。びくつくわけじゃあないけど、ワンポンリーフで突っ込みます。振り廻されても腕の見せ所もない無風よりはまし、シャワーも浴びられるし。シロット、ジブ替えろ」
カマダは途端に元気になり雑然としたデッキを片付けたり、テンダーの増し締め、雨雲のくる準備に余念がない。
黒いヴェールは確かに大きく、茶筒を立てたように周りの大気と際立った境を作って、それが単に水蒸気を含んだ気体なのだが、ある種の存在を感じさせる。
台風にジェーンとかキテイとか名付けて人格を与えるのと同じだ。意志があるかのように、雷光を不気味に煌めかせ移動しているのを畏敬を込めて見つめた。
風は神の息吹だとゆう。都会暮らしでは流行らないが、沖であう風には時として俗界を離れたなにかを感じる時がある。神は見えず匂わず触れられず、親もなければ子も成さず、遠く近く、あまねく天地をしろしめす、広大無辺なる偉大な存在とイスラム人は畏怖した。きっと風に神を感じたのだろう。
それは二時間もしないで眼前に迫って最初のひと吹きがメインセイルに裏風を送り、シートブロックをきしませて過ぎた。二日の無風の後ろには、釣り合いをとるような気流が動くものだ。見上げるとマストトップの風見もやっと仕事が出来て回転しはじめる。海面が小波立ち、水平線が上下に揺れはじめた。空気が重くなる。
見えず触われない、選べないこの力との対面が近ずく。
ローニンははっきりと境が出来た雲の縁からスコールの中に侵入する間もなく、ブームが激しく反りバウが波をしゃくりあげてどっとばかりの洗礼がきた。
クラブの仲間に「インドネシアの天気予報なら俺でも当たる。本日は暑くところにより強い俄雨、風は東西南北、時により上下から」
熱帯の気象は水道の蛇口を捻るようにして雨が降り、そして止む。もう慣れっこだ。
辺りは一気に暗くなり、風は回りわたし私はメインシートを手繰ってギャロウに固定した。
船はスタンションを波に洗われながらも全幅の信頼があるキールバラストの力で復帰するが、キャビンの中に放置してあった道具類が大きな音とともに床に落下した。
音の主が使いかけのワープロでないのを祈りながら一瞥をくれ、バルクヘッドに一度身体を叩きつけられ、雨、いや滝のように落下する水塊、射られた矢のように顔面に当たる雨滴を予想して、身構えるようにデッキに出た。
霧とゆうのかガスと呼ぶのか巻き込むようにしながら流れて、もうバウは見えない程になっている。一度頬に当たる雫を感じたようだったが、思いの外の気温低下で腕のうぶ毛が逆立ち、オレンジ色のウインドブレーカーを羽織りながら空を見上げ、そして周りを見た。漫画に描くような風の神が雲を巻きマストを握って揺らすような、
四方から魔の手で掴まれるような不気味さを感じて思わず振り向いてしまった。
バウワッチに立つシロットの黄色のオイルコートが亡霊のように表れては消える。
「来ないねえボス、黒いすだれ簾に入ったら、もうこうしちゃいられない程なのに。フネはきりきり舞い、ジャイブを防ぐのがせいいっぱいなのにスコールさんやけにのんびり構えとる」
どんよりとした不健康なガスに閉ざされマスト上半分も見えない。
そして驟雨は落ちてこなかった。
                                   
◆ ナツメグ:パラ、ニクズク。 チェンケ:クローブ、丁字、沈香。香料、薬味に珍重された木の実。 ケッチ:二本マストの航洋型ヨット。油を焚く:エンジンで走る。ウオリイフォーテイ:インド洋南緯四十度線付近の荒海。カーム/ドルドラム:無風帯。ワンポンリーフ:一段縮帆。ジブ:前三角帆。テンダー:足舟。シートブロック:滑車。ブーム:横桁。メインシート:操帆綱。 
ギャロウ:保持材。スタンション:支柱。キールバラスト:船底重量物 
バウ:舳先。 ジャイブ:風下転回。

 

 
 
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