「最低の上司」その一 「最低の上司」その二 「最低の上司」その三
「最低の上司」その四 「最低の上司」その五 「最低の上司」その六
「最低の上司」その七 「最低の上司」その八

3.自分の責任の及ぶ範囲を出来るだけ狭く解釈し、我関せずの態度を取ることで、自分のみならず部下の能力まで摘み取ってしまう上司。

[解 題]

これは前項にて述べた上司の平素の姿である。上層部から直接命令が下されぬ限り、率先して仕事をしようなど露ほども考えず、周囲の冷ややかな視線をものともせず、失敗した折りの上層部からの叱責の恐怖だけを、ぽっかりと白い雲が浮かんだ頭で、間断なく恐れている上司の姿である。
同僚や部下の非難に満ち溢れた視線に耐えるだけの根性を持ち合わせていながら、肝心の所で頑張らずに最低の上司に堕しているのは、常に否定的な結末ばかり考え続ける半生を送ったがためである。また自分を出し惜しむのが、昇進とか進歩の証であるかのように錯覚しているからだ。部下の仕事など自分が本気になれば何時でも出来るのだと自惚れたり、或いは出来るようになる努力さえもせずに誤魔化しているうちに、時代に取り残され、辛うじて残っていた能力も何時の間にか退化してしまったのに気付かないのである。
組織の要所要所に、負の働きをする人物が存在するということは、偏に部下にとっての不幸のみに留まらず、会社全体の大変な損失である。即ち負の上司は負の部下を生み、或いば負の同僚と互いに傷の舐め合いに熱中するので、組織の至る所に無意識のうちに透き間が出来、更に悪いことに透き間は確実に広がり続ける。その隙間に同業者は突け入る格好の材料を見い出し、一方社内的には各人の心の中に絶望感に似た隙間風を吹かせるのだ。堅固な堤防の崩壊の発端は往々にして小さな蟻の穴であるが如く、この小さな蟻の穴は、少数精鋭主義の堅牢な組繊でさえも、内と外からゆっくりとかつ確実に風化させ、やがては組織の存在意義さえ形骸化させてしまうのである。

[対 策]

改めて言うまでもなく、自分までもが「負の部下」にはならないように、行動の指針を自分自身にしっかりと持ち、決起するために強い意志を保たなければならない。このような上司にとって、自ら行動しようとする部下とは、上司の狡さや誤魔化しの心を白日の下に晒す存在だから、はっきり言えば疎ましいのだ。従って部下の失敗を補おうとするどころか、殺人犯を見るような目付で部下を見つめ、本質を外れ極めて表面的なことを「ビジネスマンとして最低だ」などと敢えて人前で罵倒して、自分を棚に上げるだけ上げ、意識的にせよ、無意識的にせよ、部下の能力を潰しに掛かるであろう。そのような時、部下は少なくとも裁量権がある者の発言に深く傷付き、会社への忠誠心は愚か、勤労意欲さえ喪失しかねない。しかし結局のところ、いじけてぐれてしまえば長期的に見て自分が損をするだけだから、やはりただひたすら耐えなければならない。
かくて辛く苦しい地を這うような日々が到来するが、ここへ来て自分自身に加えてより確実な行動規範になるものが現れる。それは信頼感で繋がれた顧客の声である。師が社内に見あたらぬ時は、顧客のみが最上の師である。仕事が高度であればある程、責任が重ければ重い程留意すぺき事実である。また如何に最低の上句でも、顧客の声は無視し難い。その意味で有力な顧客を自分の味方に出来るのならば、たとえ助さん角さんは居なくても、悪代官に突き付ける水戸黄門の印籠が手に入る。
顧客を味方に付け、仕事上の意見を貫くと、他人の尻馬に乗っているかのように思えるかも知れない。けれど有力な顧客が複数で、かつ本人に明瞭な見識が備わっているのであるならば、寧ろ実力の顕れなのである。社内の何処にも味方が居ない状態とば、とても不幸ではあるけれど、まず誰からも文句の言われない仕事をしてしまい、実力で圧倒するしかない場合があるのも覚悟すべきである。
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