『暴動の都』から

実録:スーパーマーケットへの襲撃

以下は、5月15日に、日本から現地入りした仲間と一緒に目撃した、現地の略奪騒動の一部始終です。私共が宿泊していたホテルの左隣にはスーパー・ヘロ(Hero)があります。そのヘロが、5月15日午後1時頃に襲撃された時には、私共はホテルのプールサイドに居りました。同日夕刻に帰国を予定している二人と、外出を控えてホテルに籠もった私が、せめてもの贅沢にと、赤道直下の日差しの下に、ビールを飲み始め、遅い昼食にハンバーガーを注文したのです。食べ物が来る迄の間に私がバミューダパンツに着替える為に自室に出向く矢先に、暴動だと叫んで駆け込んだ白人女性が居て、辺りが騒然となりました。とりあえず自室に三人で避難し、窓の外を確認しましたがデモ隊が近づいているという噂ばかりで事態が少しも掴めません。二人を部屋に置いて私は勝手に外に出て、盛んに携帯電話で情報収集をしている欧米人と話したり、警備員に真偽を確認したりしました。
そうこうしているうちにインドネシア陸軍が到着して、不審者や見物人を蹴散らし、バイクでつるんで走るインドネシアの若者を迂回させたりしました。陸軍のオートバイ部隊は果敢に対処しました。実際にHeroとその隣接の店舗の窓ガラスを割ってテレビを盗もうとした連中がいて、その連中の後に数十人の暴徒を装う集団が現れ、これも軍隊の治安部隊に蹴散らされました。大規模なモ隊がこんな狭い道路を近づくいて来るというのもどうも変な話です。どうやら騒ぎに便乗して盗みを働こうとした輩の仕業の様です。暫くしてホテルの左隣にあるマクドナルドの窓ガラスを割って騒いだのは、スーパーからの略奪が果たせなかった連中が八つ当たりをしていたのでしょう。
後日、大通りからスパー・ヘロに入る狭い道を、不審な男達が塞いでいたという話を聞きました。先ず一般の通行を遮断し、デモ隊が来るという噂を流し、見物人が集まったところで略奪対象先の店舗に投石をするのです。すると見物人と略奪者の区別が付かないので、大変な数の人間が暴動に加わっているという雰囲気を作り出して盗みを働くという、完全に作為的な犯罪です。インドネシアの学生の真摯な行動に便乗する薄汚い行為です。
更に、略奪を意図的にしかも組織的に煽った集団が居たという話や、略奪を目的にした輩が、ジャカルタにバスや電車でやって来たという説明も、現地で受けました。略奪を地元民がやればすぐに足がつくのだから、この話には真実味があります。何れにせよ決して安全とは言えないので、念の為ホテルからは出ないようにしました。部屋や上層階の窓から私の仲間が騒動の一部をビデオで収録しました。ヘリコプターからロープが降ろされ、特殊部隊が降下しているのであろう様子や、陸軍の兵士がゴム弾を発砲した姿が映っています。映像の一部をご紹介します。
ホテルの上層階に移動して遠くを見ていると、ジャカルタ市街から放火の為か、黒煙が上がっています。欧米系の男性があの方向はブロックMだ。パサールが幾つもあるから襲われたのだろうと言っていました。ブロックMの状況は分かりませんでしたが、数日後私が所用で外出した折りに、我らが愛する歓楽街は無事だったのが確認できました。白人の上品そうな叔母様が私の家はあの当たりにあるのよ、どうなったかしら、と淡々と話していたのが印象的です。ご自宅は無事だったのでしょうか。テレビの報道では、ジャカルタ東のショッピングセンターが深夜に放火され、略奪の為に侵入した暴徒が焼け死に、焼死者は200名以上出た事と、中国人街のコタが襲撃された模様を報道していました。翌朝の新聞では、クレンデルという地域にあるショッピングセンターに、やはり深夜多数が略奪の為に忍び込み、誰かが放火した為に数百名近くが焼け死んだそうです。
同様の事件はジャカルタの隣街でも起こり、暴動騒ぎの間に500近くの人名が失われました。死者を鞭打つつもりはありませんが、物盗りの為にショッピングセンターに侵入した事には同情の余地がありません。しかし真っ暗闇で手探りで歩き回っていた所に火が襲い災難に遭った様の恐怖は、想像を絶します。何という死に方なのでしょう。幾ら群集心理だとは言え、深夜に物盗り目的の為にショッピングセンターに忍び込まざるを得ない程、低所得者層が追いつめられていたのでしょうか。また数箇所ものショッピングセンターで同様の惨事が起きたという事が果たして偶然なのでしょうか。私には未だに謎です。
やはり同日、現地の経営者仲間が突然ホテルに来てくれました。製品のサンプルを出発直前のお二方に渡す為です。工場には従業員は当日は誰も居ないとの事でした。工場と自宅はすぐそばだし、何せ約束だもの、と彼は言いますが、私を含めて皆、感激しました。私共にはこの様な誠実な方々が現地に多数居るのです。彼らとの仕事を実らせたいと切に願います。


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